監護権と親権のそれぞれの違いやメリット・デメリットを解説
監護権は親権の中に含まれる権利のことで、子供の世話や教育を行う権利です。親権は監護権に加え、子が行う法律行為の代理権を持っています。離婚の協議を行う際に決められますが、当事者同士で決まらない場合は調停で決定されることもあります。
子供のいる夫婦が離婚する場合、親権について話し合い必ず決めなければなりません。この時に親権と監護権が分けられることがありますが、監護権とはどのような権利なのでしょうか。監護権は親権に含まれるもので分けることも可能な権利ではありますが、分けることで生じるメリットやデメリットがあります。今回は、監護権と親権の違いや決め方について説明します。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
監護権と親権の違い
監護権と親権は多くの場合は同様に扱われるものです。
監護権
監護権は身上監護権のことで親権に含まれる権利です。監護権とは、子供の日常的な世話や教育をともに生活しながら行うもので、基本的には子供が未成年の場合は保護者が持つ権利です。
親権
一方、親権の場合は未成年の子供に対する財産管理権と身上監護権が含まれます。これには子供の財産管理や代理人として法律行為を行う義務を含みます。 原則、未成年者が法律行為を行う場合、保護者の同意が必要です。具体的には売買、貸し借り、アルバイトなどの際に行う契約などが該当しますが、親権者は代理人として法律行為を行えます。つまり、親権は監護権も身上監護権も含んでいるということです。
監護権における日常の世話や教育
身分行為の代理権や居所指定権、懲戒権、職業許可権のことを指します。身分行為とは婚姻、離婚、養子縁組などのことで、これらを行うときに保護者が同意をすることが代理権です。
居所指定権があることで、子供がどこに住むかを決める決定権を持つことになります。懲戒権は親が子供にしつけをする権利、職業許可権は子どもが職業を営む際に、親がその許可をする権利のことです。これらは、社会的に未熟な子供の保護が目的であり、精神的にも肉体的にも健全に成長できるようにする義務として定められています。
監護権は親権の中に含まれる
離婚の際は子供の福祉を優先して考えられ、監護権は親権の中に含まれるものであることから、多くの場合親権と監護権は同じ人物が持つことになり同じように扱われることも多いです。 ただし、必ずしも同じ人物が持たなければならないと定められていないため、親権者と監護権者が別の人物となることもあります。
監護権と親権を分けるメリット・デメリット
子供の福祉を考えたときに親権と監護権を分けた方が良いと考えられた場合、二つの権利を別の人物が持つこともあります。では、監護権と親権を分けることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
監護権と親権を分けるメリット
まず、メリットとしては離婚問題の早期解決や離婚後に両者が保護者としての当事者意識を持ちやすくなることが挙げられます。日本の民法では離婚後はどちらか一方が親権者とならなければならないため、親権をどちらが持つかで争いが長引くことが少なくありません。親権を持てなかった場合、子供との関係が希薄になってしまうと考える親が多く、親権を得ようとする人が多いからです。
このように親権のみが争点となっているケースでは、親権と監護権を分けることで双方が離婚に同意することにつながり早期解決できるようになる他、離れて暮らす場合も親としての意識を持ち続けることができるため養育費の不払いになる可能性が低くなることも考えられます。
監護権と親権を分けるデメリット
メリットがある一方で、監護権を分けることで離婚後にも親同士が連絡を取る機会が増えるというデメリットもあります。子供が法律行為を行う場合に親権者の同意が必要ですが、子供とともに生活している監護者には法律行為の代理権がないため親権者に連絡しなければなりません。
時間に余裕があれば気になりませんが、緊急で保護者の同意が必要な場合などに同意がスムーズに得られないことは親にも子供にもデメリットが生じることもあります。また、親同士の頻繁な連絡が当事者間で行われることになるため、連絡自体がストレスになるという方には負担の大きなものです。
監護権者の決め方
子供がいる場合の離婚には必ず親権を決めなければ離婚することはできないため、離婚する際には監護権者を決めることになります。監護権者は基本的には話し合い(協議)で決めることになりますが、協議で解決できない場合は家庭裁判所で行われる監護者指定調停で決められます。
監護者を定める場合に気を付けておくべき点は、監護権は届け出の必要がないということです。親権者は届け出ることになりますが、監護者は届け出をする必要はありません。話し合いだけで監護者を定めた場合、親権者が監護権を後から主張した場合に証拠がないため協議離婚合意書など書面で残しておくことが必要です。
子供の場合は、80%以上のケースで母親が親権・監護権を持ち、妊娠中の場合は母親が親権を持ちます。10歳以上の場合は子供の発達度合いにもよりますが、子供の意見を尊重して決められます。子供が複数いる場合は、全員の年齢が幼いと兄弟や姉妹一緒に生活することが子供の福祉にとって良いと考えられ、原則として一方の親に親権が統一されます。
調停などで親権者を指定する場合、子どもと一緒にいられる時間が多いほうがふさわしいと判断されるケースが多いですが、親権者の健康状態が考慮される材料です。健康状態や精神的な面で健全でない場合、不適切と判断されてしまうこともあります。
子どもと一緒に過ごせる時間が多い方が、親権者としてはふさわしいと判断される傾向にあります。また、これまでの監護状況や経済的な安定についても親権者を決定するときには重要な判断事項となっているものです。
「養育費」についてはこちらの記事もご覧ください。
監護権は変更できる?
監護者の変更は、当事者間での合意がある場合は届け出などの必要もなく変更することができます。ただし、一方が監護権の変更を主張しているなど、当事者間で同意がない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立てなければなりません。調停の場で変更をする場合には、子供にとっての利益が優先されるため、家庭裁判所調査官による家庭訪問や父母・子供との面会などの調査の上で決定されます。
ただし、家庭裁判所では一度決めた監護者を安易に変更すべきではないという考え方が基本とされているため、変更を行うことに関しては慎重です。子供の利益を考える際に、環境の変化は子供にとって不適切であると考えられています。離婚の際には、どちらが子どもを育てるのに適切な親権者であるかということが考えられますが、変更する場には離婚後の養育環境の変化が重要です。
養育環境が悪化している場合は、監護権を維持することが子供にとって不適切であると変更が認められることがあります。養育環境が不適切とされるケースとしては育児放棄や虐待が認められる場合、監護者が思い病気にかかり子供の世話をできない時などです。
その他に考慮されるのは子供自身のことで、年齢によっては本人の意思も判断する際の基準になります。 15歳以上の子供には、本人の意思が確認されますし、10歳以上の場合は子供にもある程度の判断能力があると考えられているため子供の意見も聞かれるケースがあります。また、性別や精神状態、現在の環境への適応状況や新しい環境へ適応できる順応性があるかなどについても考えられることが多いです。
まとめ
監護権とはともに生活をする保護者が世話や教育を行う権利のことで、親権の中に含まれる権利のことです。二つの権利は同じ人物が持つことが多いのですが、分けることも可能ではあります。離婚問題が複雑になるケースとして親権が争点となることもあり、監護権を分けることで早期解決につながることもあります。
離婚問題の長期化は当事者同士や子供にとってマイナスとなることもあるので、解決策の一つとしてデメリットも含めて検討してみてはいかがでしょうか。