離婚したら年金はどうなる?年金分割制度と手続きの流れを解説
厚生年金に加入していなかった、又は低収入で年金額が少ないほうが離婚をするときには年金分割制度を活用しましょう。制度を利用せずに離婚をしてしまうと、将来的にもらえる年金が少なくなってしまいます。専業主婦(主夫)やパートなどで仕事をセーブしている方が離婚すると老後の年金が少なくなるというネックがあります。
配偶者と老後を一緒に過ごすなら年金が少なくても問題はないかもしれません。しかし、離婚となれば老後の生活に大きく影響してくるでしょう。そのため家事に従事してきた妻や夫の老後を支えるために年金分割という制度が設けられています。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
年金分割制度とは?
年金分割とは、離婚のときに婚姻時の厚生年金保険料の納付実績を夫婦で分け合うことができる制度のことです。近年、正社員の共働き夫婦が増えてきていますが、夫の要望や家事・育児・介護のためなどの理由から専業主婦やパートで仕事をセーブする妻も少なくはありません。しかし家事労働は年金に反映されないため、妻の個人的な年金は少なくなります。
年金は老後を支える資金として重要な役割を担うものです。そこで年金分割制度は、離婚し経済的に不安の残る妻に、将来的に受け取れる年金を保証するために設けられました。もちろん夫が妻に代わり仕事をセーブしていた場合でも適用されます。
公的年金には国民年金と厚生年金の2種類がありますが、年金分割ができるのは厚生年金のみです。国民年金は20歳以上60歳未満の全国民が加入、そこに加えて会社員や公務員が加入するのが厚生年金です。自営業やフリーランスなどの第1号被保険者は国民年金のみの納付なので、配偶者が第1号被保険者である場合は年金分割制度の利用はできません。
最大で2分の1にまで分割できる制度ですが、婚姻期間中の厚生年金記録に基づき分割を行うため、婚姻期間が短いほど分割できる年金は少なくなります。年金分割制度を利用した方の増額平均は、1か月あたり3万円でした。年金分割を受ける側の年金受給額の月額平均は、分割前が5万3405円、分割後が8万4056円です。
これはあくまで平均値なので、条件によっては平均に届かないこともあります。それでも分割制度を利用すれば将来的な年金額を増やすことができるでしょう。
年金分割制度の種類
年金分割制度には、「合意分割制度」と「3号分割制度」の2種類があります。
合意分割制度
合意分割制度では、婚姻期間中の納付記録が最大2分の1に分割されます。「婚姻期間中の厚生年金記録があること」「双方の合意が得られている又は一方の求めで裁判所が按分割合を定めること」「請求期限内(原則、離婚成立の翌日から2年以内)」であること」の条件に該当すれば利用できます。
双方で話し合い合意を得た場合に年金分割を行います。ただし配偶者の同意が得られない場合でも一方の請求によって裁判所が按分割合を定めることができます。
3号分割制度
3号分割制度では、国民年金の第3号被保険者の請求により、配偶者の合意なしで一律で2分の1に分割されます。「平成20年以降に国民年金の第3号被保険者(被扶養配偶者)期間があること」「請求期限内(原則、離婚成立の翌日から2年以内)」であること」の条件に該当すれば利用できます。
専業主婦(主夫)を対象とした、簡易的に分割できる制度です。現在は被扶養配偶者から外れていても専業主婦(主夫)期間があれば、その期間の請求ができます。ただし、配偶者の合意は不要ですが、平成20年4月以降の被扶養配偶者期間の厚生年金の納付記録しか分割はされません。
一般的には合意分割を利用する割合が多いですが、合意分割と3号分割でどちらを利用した方が得かは個人によって異なります。もちろん条件次第では合意分割と3号分割どちらを選んでも同じ結果となる場合があります。子供が生まれて一時リタイヤしたなど、被扶養配偶者期間がある方は慎重にどちらが良いのか確認したうえで制度を利用するようにしましょう。
年金分割の手続き
合意分割の流れ
1.「年金分割制度を行うための情報通知書の取得」
2.「当事者同士の話し合いによる年金の按分割合を決める」
3.「合意に基づき標準報酬改定請求書を作成する」
4.「年金事務所で年金分割の請求手続きを行う」
5.「両当事者に改定後の厚生年金の通知がされる」
両当事者が按分割合の範囲で合意すれば、その割合に従います。合意に至らない場合は、家庭裁判所にて決定を求めます。裁判所では調停による両者の合意での解決を目指す方法、または離婚裁判で按分割合を決定することもできます。裁判所が定める場合は、特段の事情がない限りは上限の2分の1に決定します。
3号分割制度の流れ
1.「年金分割を行うための情報通知書の取得」
2.「標準報酬改定請求書を作成し、年金事務所で年金分割の請求手続きを行う」
3.「両当事者に改定後の厚生年金の通知がされる」
合意分割との違いは配偶者の同意が必要なく、按分割合は一律で2分の1になる点です。手続きも簡易的なので、専業主婦(主夫)期間が長い方のスムーズな年金分割ができます。 両当事者が個人で手続きを進めることもできますが、公的証書を作成しないとならないので正しい知識を持って行う必要があるものです。
年金分割制度の相談は自治体の年金事務所、年金相談センター、弁護士、司法書士、社会保険労務士などにできます。離婚時には親権、養育費、財産分与などの問題も出てきます。解決しなくてはいけない悩みに応じて相談先を選びましょう。
年金分割の注意点
年金分割制度を利用する際に注意しなくてはいけない点があります。本来請求できるはずのものができなくなってしまう可能性もあるので、事前に確認しておきましょう。
注意したいのは、「納付記録の全額が分割できるわけではない」「離婚後、2年以内の手続きが必要」「離婚後に配偶者が死亡した場合は、2年以内であっても死亡から1か月以内の手続きが必要」などがあげられます。
年金分割できる年金の種類は厚生年金のみ、また婚姻期間中の納付記録に基づくとされています。つまり、配偶者が厚生年金加入者である会社員または公務員に限り受けられる制度です。また、厚生年金保険料の納付は就労期間ですが、就労期間の中の婚姻期間中の記録が適用になります。婚姻前の納付記録は分割の対象にはなりません。
離婚が成立した後は2年以内に年金事務所で手続きをしなければ制度は適用されなくなります。ただし、合意分割の場合はなかなか合意に結びつかず時間がかかることもあるでしょう。その場合でも離婚から2年以内に速やかに審判申立や調停申立、または按分割合に関する附帯処分申立を行います。審判の確定や合意の成立を請求期間経過後から最大6か月のうちに目指すことができれば、特例で請求期間を延長することも可能です。
また、離婚した後に配偶者が死亡した場合は、請求期間が死亡から1か月以内に短縮されます。離婚後は配偶者が亡くなってもなかなか連絡がこないこともあるでしょう。そのため2年の猶予があると余裕を持つのはあまり良いことではありません。離婚後は速やかに手続きをすることをおすすめします。
「熟年離婚」についてはこちらの記事もご覧ください。
まとめ
家事に従事している側が離婚後に老後の年金が少ないというとは道義的に正しくありません。配偶者が公的年金の第2号被保険者である場合は、年金分割制度を利用するようにしましょう。請求期限は離婚をした翌日から2年以内です。ただし分割制度で年金を増やしても、安心して老後を過ごすためには自分の老後資金を増やすことも考えなくてはならないでしょう。