離婚時の年金分割の制度や手続きについてわかりやすく説明
年金分割制度をご存知でしょうか。婚姻期間中に納めていた厚生年金保険料の納付額を離婚する際に分割し、将来的に公平な年金が受け取れる制度です。
しかしまだまだ認知度は低く、利用している方が少ないのが実状です。 今回は、まだあまり知られていない年金分割制度を解説いたします。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年10月31日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
年金分割制度とは?
夫婦は、婚姻中に築き上げてきた財産を等しく分けるべきだと考えられています。働いている夫だけが年金を納めていたとしても、妻が夫を支えたと判断されるため、婚姻中に納めていた年金も公平に分けるべきだといわれています。
年金分割制度とは、離婚した夫婦が婚姻期間中の厚生年金記録を2人で分けることをいいます。夫の扶養に入っている妻は厚生年金に入っておらず、老後にもらえる年金が少ないことが問題視され、年金分割制度ができました。
年金分割制度で分けられるのは、厚生年金のみです。厚生年金は、企業で働くサラーリマンが払う年金のことをいいます。2015年(平成27年)に共済年金が厚生年金と統一されたため、公務員の年金も分割対象です。ただし、国民年金は分割されないため、自営業の方は年金分割の対象になりません。
離婚時の年金分割の種類
年金分割の種類には「合意分割」と「3号分割」があります。両者の大きな違いは夫婦の合意が必要か否かです。
合意分割
厚生年金の納付額が少ないほうが多い方へ請求し分割する制度です。合意分割は夫婦で話し合って合意のもと、年金を分割します。合意が得られない場合は、調停や裁判で分割を要求することになります。
分割の割合は夫婦で話し合って決められますが、合意分割の割合は上限が50%と定められています。この制度は2007年4月に施行されましたが、それ以前にもさかのぼって分割請求が可能です。請求対象となる期間は婚姻期間中です。
3号分割
婚姻中に片方が主婦のような第3号被保険者であった方が対象です。第3号被保険者が請求できるため、3号分割と呼ばれています。また合意分割と違い、相手の合意なく分割できます。分割の割合は一律で50%です。
2008年4月に施行されたため、それ以降に支払った年金のみが対象です。2008年4月以前の年金を分割したい場合は、合意分割によって行う必要があります。当てはまる場合は、どちらの申請も可能です。
「熟年離婚」についてはこちらの記事もご覧ください。
離婚時の年金分割の計算方法
年金を分割するとなっても、実際にもらえる金額がわからないのに合意するのは難しいでしょう。単純に半分がもらえるわけではありません。もらえる年金はどのように計算すればいいのでしょうか。
年金分割のための情報提供請求書を提出
年金分割の計算を正確に行うには、「年金分割のための情報提供請求書」と年金手帳、戸籍謄本、住民票などの書類と一緒に管轄の年金事務所へ提出します。情報提供請求書は日本年金機構のサイトからダウンロードできます。また、提出後1ヶ月ほどで「年金分割情報通知書」が郵送されます。
年金分割情報通知書
年金分割情報通知書には、年金を請求・請求される人の氏名、生年月日、対象期間標準報酬総額、婚姻期間、対象期間、按分割合の範囲などの情報が記載されています。
年金分割の計算には、情報通知書に書かれている「対象期間標準報酬総額」と「分割割合の範囲」を利用します。
共働き夫婦の場合
共働きの夫婦の場合は合意分割で計算します。
<合意分割の計算方法>
- 夫と妻の標準報酬総額を足して合計金額を出す
- (上限50%)分割後の標準報酬総額を出す
- 分割後の老齢厚生年金額を出す
按分割合は話し合いで決まります。ただし、標準報酬総額が低いほうの割合の上限は50%です。例えば夫のほうがたくさん稼いでいるのに、夫の按分割合が30%で妻の割合が70%にはなりません。総額が低いほうは50%までです。
老齢厚生年金額は年齢や加入期間によって乗率が異なります。
専業主婦などの場合
専業主婦は第3号被保険者となり、3号分割の対象者です。2008年4月以降に結婚している場合は、合意分割はなく3号分割のみです。それよりも前から婚姻している場合は、3号分割と合意分割どちらも計算する必要があります。
<3号分割の計算方法>
- 夫と妻の標準報酬総額を足して合計金額を出す
- 按分割合50%から分割後の標準報酬総額を出す
- 分割後の老齢厚生年金額を出す
按分割合が50%と決まっているため、夫も妻も0.5で計算し、均等に年金が分配されます。
離婚時の年金分割手続き
ここからは年金分割手続きをご紹介します。
合意分割の場合
夫婦で分割に合意している場合は、問題なく合意分割が行えます。正式に離婚が成立した後に年金事務所に以下の書類を提出します。
<年金事務所への提出書類>
年金分割制度は婚姻届を出していない事実婚でも請求できます。その場合は、事実婚にあったことを証明できる住民票などの書類を提出します。
3号分割の場合
3号分割は相手の合意がなくても請求できます。ただし、婚姻期間が2008年4月よりも前からで合意分割と3号分割とどちらも行う際は、合意分割分は相手の合意が必要になるため、注意が必要です。
<年金事務所への提出書類>
- 標準報酬改定請求書
- マイナンバーカードもしくは、年金手帳もしくは基礎年金番号通知書
- 戸籍謄本などの婚姻期間を確認できる書類
- 請求日1か月前までに作成された、元夫・元妻の戸籍謄本や住民票などの生存を確認できる書類
- 運転免許証など顔写真付きの本人確認書類
合意分割と異なり、相手の合意がなくても申請できるため、「年金分割について合意を確認できる書類」は必要ありません。また、合意分割同様、事実婚でも年金分割を行えます。
離婚が正式に成立していなくても、事実上離婚状態にある場合は3号分割を請求できます。事実上、別れていることを証明する書類を提出します。
年金分割の気になるポイント
その他、年金分割の気になるポイントをご紹介します。
年金分割の手続きに期限はあるの?
年金分割で気をつけなければならないのが、離婚後翌日から2年以内に手続きを終える必要があることです。
相手が亡くなった場合
離婚後、相手が亡くなってしまった場合はどうなるでしょうか。もし相手の合意が得られていない場合は、例え離婚後2年以内であっても手続きすることはできません。
合意が得られている場合、亡くなってから1ヶ月以内であれば手続きが可能です。
再婚した場合はどうなるの?
もしも再婚した場合、分割した年金はどうなるのでしょうか。再婚する以前に、年金分割の合意が得られ、手続きも完了しているのであれば影響はしません。
まとめ
離婚後、専業主婦や家事をしていて年収が低いほうは、離婚後の生活ができるかなどの金銭面の不安が大きいです。とくに老後は働けず年金生活となります。婚姻期間中の厚生年金は夫婦でわけるべきだと考えられており、年金分割は正当な権利です。離婚後の生活に不安を感じている方は年金分割制度を利用してみてください。