弁護士が教える財産分与の基本
財産分与とは、夫婦が離婚したときに、結婚している間に協力して築き上げた財産を清算するため、その財産の分割を求めることをいいます。
こちらの記事は日暮里中央法律会計事務所 三上貴規弁護士が執筆し、財産分与の基本をわかりやすく解説しています。
[ご注意]
記事は、公開日(2023年1月24日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
財産分与とは
財産分与とは、夫婦が離婚したときに、結婚している間に協力して築き上げた財産を清算するため、その財産の分割を求めることをいいます。
財産分与の割合は、夫婦で2分の1ずつというのが原則です。これは「財産を作り築き上げるにあたっての夫婦の貢献の割合は、特別な事情がない限り同等である」という考え方が実務で定着しているからです。
財産分与の相場とは
令和3年の裁判所の統計によりますと、裁判所で取り扱われた事件のうち、財産分与の金額が取り決められた事案のデータは以下のようになっています。
件数 | 割合 (小数点以下四捨五入) | |
100万円以下 | 1,774 | 28% |
200万円以下 | 987 | 15% |
400万円以下 | 996 | 16% |
600万円以下 | 637 | 10% |
1,000万円以下 | 857 | 13% |
2,000万円以下 | 733 | 11% |
2,000万円を超える | 401 | 6% |
このうち、結婚期間が15年以上の事案に絞ると、以下のような数値になっています。
件数 | 割合 (小数点以下四捨五入) | |
100万円以下 | 416 | 13% |
200万円以下 | 370 | 12% |
400万円以下 | 491 | 16% |
600万円以下 | 414 | 13% |
1,000万円以下 | 583 | 19% |
2,000万円以下 | 548 | 17% |
2,000万円を超える | 321 | 10% |
二つの表を比較すると、全体の表では、100万円以下の割合がもっとも多いですが、結婚期間が15年以上の事案に絞った表では、1000万円以下の割合がもっとも多くなっています。
このように、結婚期間が長い事案では、財産分与の金額が高くなる傾向にあります。これは、結婚期間が長いほど、夫婦の間でより多くの財産を築くことができるからだと考えられます。
さらに、結婚期間が25年以上の事案に絞ってみるとどのようになるでしょうか。
件数 | 割合 (小数点以下四捨五入) | |
100万円以下 | 110 | 8% |
200万円以下 | 119 | 9% |
400万円以下 | 180 | 13% |
600万円以下 | 179 | 13% |
1,000万円以下 | 300 | 22% |
2,000万円以下 | 285 | 21% |
2,000万円を超える | 189 | 14% |
結婚期間が25年以上の事案では、半数以上のケースで600万円を超える財産分与の取決めとなっていることがわかります。
このように、結婚期間が長ければ長いほど、財産分与が高額になる傾向があるのです。
財産分与の期間制限とは
民法の規定により、財産分与は離婚の時から2年を過ぎると裁判所を使った請求ができなくなります。
離婚をしたものの、財産分与について取り決めをしていない場合には、早めに対応する必要があります。
財産分与の方法とは
ここからは、財産分与の方法について、疑問が生じやすい事項を中心に、具体的に解説していきます。
基本的な方法
財産分与の割合は、夫婦で2分の1ずつというのが原則です。しかし、これは「夫婦の持っている財産のひとつひとつを2分の1ずつに分けていく」という意味では必ずしもありません。
基本的な方法としては、別居した時点で夫婦が持っていたプラスの財産の合計からマイナスの財産の合計を差し引き、その額の2分の1を夫婦それぞれが取得できるように分けるというものになります。
たとえば、別居した時点で夫婦が持っていたプラスの財産の合計が1000万円、マイナスの財産の合計が400万円の場合、(1000万円-400万円)×1/2=300万円を夫婦それぞれが取得できるように財産を分けていくことになります。
財産分与は金銭を支払う形で行うことが多いですが、不動産などの財産を渡すという方法でも構いません。
財産別にみた分与の方法など
マイホーム
マイホームは、結婚生活の中で最も高額な買い物である場合が多いため、どのように財産分与されるのか気になる方も多いと思います。
マイホームも夫婦の持っている財産の一つですので、財産分与の対象となります。マイホームの価値は、不動産業者に簡易査定を依頼して算出してもらうことが多いです。
また、マイホームは、住宅ローンを組んで購入している場合が多いです。離婚の時期によっては、マイホームの価値が住宅ローンの残額よりも低い(ローンの方が高額)ということもありえます。
このような場合、マイホームの価値をゼロとして計算することも考えられます。
しかし、そのような計算はせず、マイホームをプラスの財産、住宅ローンの残額をマイナスの財産とみたうえで、夫婦の持っている他の財産と一緒に計算して、財産分与を行うことが多いです。
家具
家具も夫婦の持っている財産ですので、財産分与の対象となります。そのため、家具の価値を算定して財産分与をすることもできます。
しかし、中古の家具はそれほど高額にならないことが多いため、話し合いにより、夫婦のそれぞれが必要なものを引き取るという方法で財産分与が行われることもよくあります。
裁判所の手続で財産分与を行った場合には、よほど高額な家具でない限り、無価値と評価されることが多いです。
夫婦の一方しか使わない洋服・アクセサリー
夫婦の一方しか使わない洋服やアクセサリーは、原則として、財産分与の対象にはならないと考えられています。
ただし、合計80万円の指輪2つについて、結論として財産分与の対象となるとした裁判例もあり、ケースによっては財産分与の対象となる可能性もあります。
退職金
既に支払いを受けている退職金については、現金や預貯金と同様に財産分与の対象になります。
では、将来支払われる退職金はどうなるのでしょうか。
たしかに、退職金の支払いを受ける人が、将来会社を解雇されたり、会社が倒産してしまったりして退職金を受け取れない可能性は否定できません。
しかし、実務では、退職金が支払われない可能性は考慮せず、別居日に自己都合退職したとしたら受け取れる退職金の額をプラスの財産に組み入れることが多いです。
まとめ
この記事では、財産分与の基本的な内容について解説しました。この記事で解説したものは財産分与に関するごく一部の情報です。
現実に財産分与を行うとなると、この記事で解説した以外の問題が発生することもあります。また、裁判所での手続を行う場合には、その手続の進め方も理解しておかなければなりません。
そのため、財産分与について疑問があったり、話し合いがまとまらなかったりするような場合には、離婚問題を取り扱っている弁護士に相談してみることが有益です。法律事務所の中には、初回相談を無料としているところもあります。
裁判所を使った財産分与の請求は離婚から2年以内という法律の決まりがあります。うっかり期間を過ぎてしまわないように、できる限り早めに相談するのがよいでしょう。