別居は財産分与に影響ある?離婚前別居のメリット・デメリット
離婚前の別居には意味があり、メリットやデメリットがあります。財産分与にも影響し離婚を巡って裁判になった場合、離婚前の別居期間の長さがそのまま婚姻を継続できない理由になるわけでもなく、その他の理由や婚姻期間の長さと合わせて総合的に判断されます。
夫婦が一緒に暮らすことが困難かもしれないと感じたときの選択肢の1つが別居です。それぞれ自分を見直してみよう、距離を置いて冷静になろうという意図があるかもしれませんが、関係修復できなければ離婚になります。別々の人生を歩むことにした場合、離婚前の別居は手続きを進める上で大きな意味があります。ここでは離婚前の別居のメリットやデメリットについて説明するので参考にしてください。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月9日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
離婚前の別居が意味すること
裁判所が離婚を認めるかどうかは、離婚前に別居しているかどうかが判断基準のひとつになります。双方合意して離婚する場合は離婚そのものについて争いは生じませんが、夫婦のいずれかが同意しない場合は裁判所で争うことになります。その場合、婚姻関係が破綻していたかどうかが判断基準になりますが、破綻していたと認められる最大の事情になるのが別居という事実です。
これは民法に定められている「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」を根拠にしており、夫婦には同居の義務があるとされているからです。仕事や特殊な理由から別居している夫婦もいますが、法律上及び社会通念上、夫婦は同居しているということが前提であるため別居という事実は婚姻関係が破綻している事情として認められます。
別居という事実がそのまま離婚につながるわけではなく、夫が他の女性と一緒に暮らすために家を出て行った場合は、同居の義務に反するとして妻が夫側に離婚を請求できる理由になります。これは民法上の「悪意の遺棄」に該当する可能性があるためで、夫は離婚時に不利な立場になり慰謝料を請求されることがあります。もちろん勝手に家を出て愛人と暮らしている夫が別居を理由に妻に離婚を請求することはできないです。
ただし夫が家を出て長い時間が経っており他の女性との間に子どもがいる、夫の暴力から逃れるために妻が話し合いもせず家を出て行ってしまったという場合は、客観的に見て既に夫婦関係は破綻しているとして離婚が認められる可能性があります。 いずれにせよ別居という事実を離婚の理由とするには別居するのは仕方が無いと判断できるような正当な理由が必要で不貞行為やDV、モラルハラスメントなどが該当します。
離婚前の別居は財産分与に影響する?
離婚が決まったら財産分与の話になります。財産分与とは夫婦の共有財産を分け合うことで離婚するときの条件の1つですが、財産分与をする上で離婚前の別居は財産分与の基準時になります。
財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産とは夫婦で築いたものであり結婚生活の中で築き上げた財産です。つまり基本的には夫婦として一緒に生活していた時に築かれたものであり、たとえ名義が別々であったとしても共有と認められ、原則50対50での分割となります。
したがって別居している期間は夫婦で生活していないため、ともに築いた財産ではないので、別居を基準時としてそれぞれの単独所有になるということです。
別居は婚姻費用の請求基準にもなる
別居は財産分与の基準時になりますが、婚姻費用の請求基準にもなります。婚姻費用は別居後に収入の低いほうが高いほうに請求できる生活費で、離婚が成立するまではお互いを支え合う義務があるからです。
ここでいう婚姻費用とは社会生活をする上で必要な衣食住に関わる費用や子供の養育費などを指し、費用を請求できるのは別居を始めた時から離婚が成立するまでの期間です。
ですが一般的に裁判所が認めるのは請求した日からであり、離婚の原因が婚姻費用を請求する側にある場合は請求が認められなかったり、減額されたりする可能性があります。
こうしたことから離婚前の別居の時は、財産分与は額に関係なく争われることが多いです。 財産分与の対象となるのは夫婦がともに築き上げた財産だと説明しましたが、具体的にはマンションや土地などの不動産、現金や預貯金、退職金、有価証券などで、借金やローンなどの負債も含まれます。
退職金
退職金は婚姻期間中に積み上げたものが対象になり、すでに退職金が支払われている場合はもちろんですが、まだ支払われていない場合でも将来もらえる可能性が高い場合は財産分与の対象になります。
離婚前の別居のメリット・デメリット
別居は離婚に際してさまざまな場面に影響することがわかりましたが、メリットやデメリットがあることを知って行動することが大切です。
メリットとしては、まず別居は婚姻関係の破綻の判断基準になるため、離婚を望む側にとっては離婚原因を作ることになります。別居期間にもよりますが、長くなればなるほど婚姻関係が成立していないと判断されるため離婚をしやすいです。
離婚を望んでいた相手に対して、離婚の意思が変わらないことを伝えて心理的プレッシャーを与えることにもなります。たとえ相手が離婚を望んでいなかったとしても別居してしまえば現実に直面することになり、次第に状況を受入れざるをえないことを認識することにつながります。
別居のデメリットは、なんといってもやり直すことが難しくなるということです。別居というのは婚姻関係の継続が難しいことを示す事実ですが、離婚しようかどうか迷っている場合は別々に生活することで相手の気持ちが離れやすくなります。やっぱりもう一度やり直したいと考えても、相手がもういいと考えるようになる可能性があります。
やり直すことを視野に入れているのであれば別居はデメリットです。また別居の事実を理由に相手から離婚請求される可能性があることも知っておく必要があります。
離婚するつもりで家を出たとしても特別な理由がない場合は「悪意の放棄」にあたる可能性があるため、相手からそれを理由に離婚を請求されるかもしれないということです。 情報収集が難しくなるのもデメリットです。相手の不倫で別居になったとしても、別々に暮らせば行動を把握しにくくなるので証拠を掴むのが難しくなりますし、収入や財産など、相手がどれだけ保有しているのかについても調べづらくなります。
離婚の原因となる別居期間とは?
別居の事実は離婚の原因になることは分かりましたが、DVやモラルハラスメント、不倫が原因で別居にいたるのとは別に、なんとなく夫婦関係が疎遠になった場合に夫婦関係が破綻していると判断するためには別居期間がひとつの目安となります。
別居期間
裁判になった場合、裁判官が双方の夫婦関係の実体を伺うことは難しいです。そのため婚姻関係の破綻を判断する参考として別居期間が判断基準として用いられます。つまり、これだけの期間別々に暮らしているのだからやり直すのは無理だろうと判断するための期間であり、別居の経緯やその間の交流状況など複数の条件と合わせて総合的にケースバイケースで判断されます。
相手の不倫が原因で別居した場合は別居期間が短くても認められることがありますし、DVが原因で子供と一緒に家を出た場合も同じことがいえます。ただし不倫やDVは行為そのものが離婚理由として認められる可能性が高いので、別居期間が短くても離婚が成立すると考えられます。
婚姻関係の破綻が認められる程度の期間
離婚するための判断基準である婚姻関係の破綻が認められるためにどの程度の期間が必要かについては、それぞれです。たとえば婚姻関係を結んでからそれほど同居せずに別々に暮らし始めた場合は別居期間が短くても離婚を認められる可能性が高いですし、長く連れ添った夫婦が1年くらい別居したところで離婚は難しいといえます。
裁判所が離婚のために判断基準とするのは、ただ別居していた期間の長さではなく別居した経緯、別居中の夫婦としての在り方や生活費の支払、同居していた期間と別居期間の長さの比較など総合的なものだということです。
まとめ
離婚前の別居は、離婚に関するさまざまなことに影響するので、考えて行動することが大切です。またもう一度やり直したいと考えて別居するのであればデメリットになることも知っておくべきでしょう。離婚は人生を左右する大きな出来事のひとつです。現在別居中でこのままでいいのだろうかと迷ったとき、離婚を前提とした別居を考えているときは専門家に相談することも大切です。