有責配偶者とは?離婚の原因を作った人から離婚できるケースは?
有責配偶者とは、民法770条1項などに当てはまる人のことをいいます。有責配偶者から離婚請求することは難しく、離婚するときには慰謝料などを配偶者から求められます。
有責配偶者になると、離婚をしたくてもできない状態になります。離婚や悪意で放棄されたときなどは慰謝料が発生する可能性もあるため、離婚を考えた時には自分が有責なのか、相手が有責なのかは重要なポイントです。
どのような場合、有責配偶者になるのか、責任はどうなるのかを知っておくことで、今後の夫婦問題を解決するためのヒントにつながります。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月9日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
有責配偶者とは?
有責配偶者とは、文字どおり離婚の原因を作った人のことを指します。婚姻関係が破綻となる原因を作った責任のことを有責と言い、民法770条1項で定められている相手に離婚を求めることのできる条件に当てはまります。
離婚事由に該当する行為を行うことで夫婦生活を破綻させた責任を負う配偶者のことですが、双方が不貞行為をしてどちらにも責任があるというケースもあります。この場合は、より有責性が大きい方が有責配偶者となるとされています。
双方に同じぐらい責任があるという場合には、どちらも有責配偶者には当てはまらず有責配偶者はいないということになっています。この場合、離婚するときには、慰謝料などを請求できないと判断されます。有責配偶者になると、離婚したいと思っても離婚は有責側からは原則として認められておらず、裁判を起こしても離婚できないため注意が必要です。
どうしても離婚をしたいという場合には、相手側から厳しい離婚条件を突きつけられることを覚悟しなければなりません。婚姻関係を破綻させた側ですので、離婚条件を決める際には不利な立場になります。慰謝料の請求だけではなく、財産分与・親権などにおいても相手からの条件は厳しくなってくるケースがほとんどです。
ただし、有責側だからといって全ての条件を飲む必要はなく、相手との条件が合わなければ弁護士などに依頼をして自分が納得のいく条件とすり合わせていくということもできます。 早く離婚したいからといって、相手の条件に全て合意してしまうとその後の生活が大変になってしまうというリスクが高まるため、離婚問題に詳しい弁護士に相談するということは重要です。
有責配偶者とみなされるケース
有責配偶者と見なされるケースはいろいろあります。民法770条1項で定められているものは、ほとんどの場合、有責に当てはまるため、自分が有責かどうかは民法770条1項をチェックすることでわかります。
不貞行為
具体的には、不倫や浮気で配偶者以外と肉体関係にあると、有責となってしまいます。肉体関係がなければ不貞行為にはあたらず、有責配偶者にもならないとされています。 不貞行為があったと認められた場合、婚姻関係の継続が難しいとされて離婚請求が認められます。有責配偶者と見なされるケースとしては、不貞行為が複数回・一定期間があったとの証明が求められます。ホテルや相手の部屋に出入りする写真や、性行為があったとわかる映像や音声が証拠となります。
配偶者に対する悪意の遺棄
配偶者に対する悪意の遺棄も、有責になります。夫婦間の義務として同居の義務・協力義務・扶助の義務が定められていますが、これらの義務を果たさないと悪意の遺棄と見なされます。生活費を渡さない、理由もないのに別居をするなどが悪意の遺棄です。
生死が三年以上わからない
生死が三年以上わからない場合も、有責配偶者扱いされます。離婚を希望するときには、配偶者を探したが見つからず生死不明であるということを裁判所で証明することが求められます。
家庭内暴力・経済的DV
家庭内暴力・経済的DVも有責になり、これは民法では婚姻を継続し難い重大な事由に該当します。殴る蹴るの暴力だけではなく、相手への人格否定やモラハラ、性行為を強要するなど肉体に限らず精神的にも追い詰める配偶者も、有責配偶者となるため離婚する際には慰謝料などが請求されます。
有責配偶者の慰謝料
婚姻関係の破綻の原因である有責配偶者は、慰謝料の支払い義務が生じるケースもあります。
不法行為に基づく損害賠償
不法行為に基づく損害賠償として請求されるもので、不貞行為・家庭内暴力などによって生じた精神的苦痛に対して慰謝料が請求されるという形です。
有責配偶者が支払う慰謝料の相場は、離婚理由によって異なってきます。不貞行為の場合には100万円〜300万円、悪意の遺棄なら50万円〜300万円、家庭内暴力は50万円〜300万円、性行為の拒否0円〜100万円程度になります。
ただし、慰謝料はさまざまな要因が考慮された上で請求されるものですので、これらはあくまでも相場であり目安の金額です。具体的には不法行為だけではなく、婚姻期間・子供の有無・有責配偶者の資産・別居期間・不倫期間・家庭内暴力の期間などが慰謝料に大きく関わってきます。しかし、不貞行為があったとしても、証明する証拠がなければ不貞がなかったと見なされ慰謝料請求は難しくなります。
「慰謝料」についてはこちらの記事もご覧ください。
双方に有責がある場合
双方に有責があるという場合には、結果的に痛み分けとなるため慰謝料の請求はできなくなっています。慰謝料請求が認められなかったケースとしては、
夫が家庭内暴力を行い、妻が不貞行為をおこなっていた。
夫が家庭内暴力で妻が度を超えた宗教活動を行い、夫が慰謝料を請求した。
妻が性行為を拒否して夫が暴力を振るうようになり、妻が慰謝料を請求した。
いずれも否決された事案もあるため注意が必要です。
これらのように双方に問題があって離婚に至ったという場合には、有責配偶者はおらず離婚理由として多い性格の不一致で離婚したということになります。
有責配偶者から離婚はできる?
有責配偶者でも、協議離婚で配偶者と話し合いをすることや、裁判所に離婚を申し立てるということはできます。しかし、婚姻関係の破綻の原因を作った有責配偶者からの離婚請求は基本的に求められず、裁判所では許さない傾向にあります。ただし、有責配偶者であっても離婚請求が認められる条件があるため、当てはまるのであれば離婚できる可能性が出てきます。
夫婦関係が既に破綻しているという場合
特に離婚しやすいのは夫婦関係が既に破綻しているという場合です。別居期間がかなり長いなど、結婚生活が既に破綻していると修復の可能性もない状態である、あえて離婚を認めないと相手配偶者の利益にならず、実態にもそぐわないと裁判所で判断される可能性が高くなります。 裁判所では単純に別居年数だけを見るのではなく、有責配偶者の責任に対する対応、当事者間の事情などを考慮した上で総合的に判断して離婚が認められます。
子供がいないという場合
子供がいないという場合も比較的認められやすいとされています。未成年の子供がいる場合には、両親二人に子供を養育する義務があるため、別居期間が長くても未成年で経済的に自立していない子供がいるときには、有責配偶者が離婚を申し立てても離婚はできないことが多いです。
相手の生活保障がしっかりしている
相手の生活保障がしっかりしていれば有責配偶者の離婚請求が通る可能性もありますが、これは相手の生活が困らないような状況を作るということがポイントです。配偶者が離婚した場合、生活に困ってしまうなどの状況になることは社会正義の観点から許されないと考えられているためです。配偶者の生活が離婚後に困らないのであれば、有責配偶者が離婚請求を行なっても認められる可能性があるかもしれないとされています。
まとめ
有責配偶者になると、自分からは離婚請求することが難しく、離婚する場合には慰謝料が求められてしまいます。離婚を考えた場合には、夫婦の話し合いだけで解決することは難しいケースも多いです。
自分の置かれている状況や立場などを知り、できるだけ良い形で離婚したい、配偶者と話し合いたいというときには離婚に詳しい弁護士に頼ることで適切なアドバイスをもらえます。