不妊は離婚の理由にできるのか?離婚までの流れや慰謝料について
子孫の残すということは人生において大きな目標である方も少なくありませんが、婚姻後に相手が不妊であることが分かり、不妊離婚を考える方も存在しています。果たしてそれは可能なのか、どんな手続きがあるのかについて探っていきます。
離婚は基本的には双方が協議をした末、合意に基づいて行われるものですが、たとえ合意が得られなかったとしても正当な理由があるとされた場合、裁判手続きなどにより離婚が成立するケースもあります。ここで気になるのが不妊離婚は正当な理由に当たるのかという点です。人間の尊厳に関わるセンシティブな問題だからこそ丁寧な解決方法を考えたいところです。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
不妊を理由に離婚できるのか?
離婚の多くは協議離婚となり、夫婦で話し合いをして結論を出します。性格の不一致や生活のすれ違いなどさまざまな理由から離婚について協議をしますが、その理由のひとつに不妊離婚も含まれています。婚姻関係を結ぶ動機には将来子供を授かって幸せに暮らしたいというライフプランを考える方も多く、それが叶わないことが発覚した時に破綻してしまいます。
昨今では医学が発達して不妊治療で幸せを掴む方が居るのと同時に、妊娠することが不可能であると確定することも可能な時代になりました。もしも子供を授かることが結婚の大きな目的だった場合、不妊ならばその後も一緒に暮らす目的を失ってしまいます。そこで二人でじっくりと話し合い、お互いのために別れた方が良いと判断された場合は協議による不妊離婚が成立し、最寄りの役所に必要書類を提出することになります。
その一方で協議による合意が得られなかった場合には裁判所に申し立てし離婚裁判を起こすことがありますが、その理由に不妊離婚は含まれていません。調停の正当な理由に当てはまるのは不貞行為や悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復する可能性が極めて低い精神疾患を患う、その他婚姻を継続するのが難しい理由などがあります。
最後の項目に不妊離婚も含まれると考えてしまいがちですが、現実には子供が居なくても幸せに暮らしている夫婦も居ることから、現時点では不妊離婚は理由に含まれていません。 もっとも全ての国民に与えられている裁判権により不妊離婚を理由に調停を行うことは不可能ではありませんが、これまでそれが受理された判例は無いのが現状です。
不妊が原因で離婚する場合に慰謝料は発生するのか?
離婚に伴う慰謝料は相手に違法行為があった場合はもちろんのこと、浮気や不倫などモラルに反する行為があったなどを理由に、精神的苦痛を受けた場合に請求するものです。離婚ではそれらの行為によって婚姻生活を破綻させる原因となった場合に、配偶者に対して慰謝料請求が可能です。
該当する事由には配偶者の浮気や不貞行為、ドメスティックバイオレンス、モラハラ、金品の搾取、給与を家庭に入れずに生活苦となったケースなどがあげられます。これらは相手から一方的に行われた行為について認定され、例えばダブル不倫やお互いに暴力を振るうなど双方に原因があった場合には成立しないことがあります。
一方、不妊離婚の場合はそれだけをもって婚姻関係を破綻させたとはいえず、不妊のみを理由として慰謝料の請求を行うことはできません。ただし、不妊と併せて前述の不貞行為や暴力などがあった場合には、関連する事由として慰謝料の請求が行える場合があります。
しかし、不貞行為やドメスティックバイオレンスなどは表立って行われるケースは皆無で、そのほとんどは密室の中で行われます。それを裁判で立証するためには相応の証拠が必要で、決定的な現場を押さえた映像や音声などが無い場合には立証が困難で、泣き寝入りするケースも少なくありません。 一方、スマートフォンなどのデジタルデバイスを駆使して決定的な証拠を押さえれば、裁判の中で立証される可能性も格段に高くなり、慰謝料を請求できます。いずれのケースにおいても、不妊離婚とその他の事由は分けて考えることが大切です。
不妊離婚の流れ
一般的に離婚は協議離婚で行われ、不妊離婚の多くも同様です。当人同士で協議をして合意まで至れば離婚届に必要事項を記載し、それぞれが自身の手で行った署名と捺印をして最寄りの市町村役場にある住民課や戸籍課などに提出して、受理されると戸籍に離婚した旨が記載され離婚が成立します。双方が納得してから離婚届を提出できるなら、円満解決することが可能です。
一方、双方で行った協議が合意までに至らなかった場合には、司法に判断を委ねる方法があります。調停離婚では家庭裁判所に離婚調停を申し出ると調停委員が両者から冷静な環境で言い分を聞き取ります。ここで慰謝料の有無や金額、財産分与などの範囲が決定され、双方が合意すれば離婚が成立します。
これらの方法で解決できない場合には、裁判を提起する方法があります。不貞行為や暴力など法定離婚事由を提示して双方の言い分を証言して、最後に裁判長が離婚に値すると判決を下した場合に離婚が成立します。
ただし、ここでの法定離婚事由には不妊離婚は含まれていないため、単独で離婚まで至ることは考えられません。そのため、不妊離婚を成立させるためには他の事由と併せる必要があります。これまでには不妊を理由に長期にわたり別居して婚姻関係が事実上破綻している、一方的な暴力を受けていたなど他の事由と併せて成立した事例があります。
調停や裁判の場合は必ずしも本人の望み通りの結果になるとは限らないリスクがあることも考慮する必要があるほか、不貞行為や暴力など立証できるだけの証拠を集めるのも多大な手間がかかります。
不妊離婚を避けるために
現代ではライフスタイルが大きな変化を見せており、結婚すれば必ず子供を作らなければならないという考え方は過去のものになりつつあります。その一方で年配の親御さんからは、孫の顔が見てみたいとプレッシャーを掛けられることもあります。最も重要なのは当人の尊厳で、どんな風に生きていきたいのか将来のビジョンをお互いに話し合い、ともに実現させていくことが大切です。
不妊治療では保険治療が開始される以前よりも身近な存在となったほか、医学の発達からさまざまな方法も登場し、子宝に恵まれる可能性を秘めています。現在は不可能であっても、ごく近い将来に新たなイノベーションが生まれて画期的な治療法が見つかることも考えられます。
また、さまざまなチャレンジをした結果、不妊であることが確定した場合でも養子縁組をしてお子さんを迎え入れるという方法もあります。あるいは子供を持たずに二人だけで一生添い遂げるという選択をする夫婦も増えており、子育てに費やす可能性のあった時間や費用などのリソースを趣味や自己研鑽、そして何より二人の時間をエンジョイするために充てるのも良いものです。
いずれの方法を選択するにしても二人でじっくりと話し合い、納得できる結論を出すことが大切で、もしも二人だけで解決が無理だった場合には地方自治体に設置されている相談窓口や、専門機関などに問い合わせてカウンセリングを受け、今後の結婚生活についてアドバイスをしてもらうのも良い方法です。結婚を決意した日を思い出しながらお互いに思いやりを持って接し、時間をかけて話し合うことが大切です。
まとめ
不妊離婚は繊細な問題であるからこそ、たとえそれが正当な理由であったとしても離婚に至るまでには心身ともに大きなエネルギーを消耗します。不妊離婚は大半のケースで法的事由にはならなないものの、双方が合意する協議離婚なら可能なのはもちろんのこと、不貞行為や暴力などが伴えば調停や裁判で成立するケースもあります。一度は心から一生添い遂げると決めた相手だからこそ、思いやりを持って円満解決を目指したいところです。