離婚届の不受理申出制度で一方的な離婚を阻止!手続きや利用方法
離婚届を提出すること自体には特にルールはないことから、夫婦のどちらかが勝手に役所に提出ができてしまいます。そこで離婚に同意できない場合には、離婚届不受理申出をすることで差し止めることが可能です。
本来、離婚は夫婦双方の同意の上で成立するものです。離婚届を提出する際には特に審査などが無いことから勝手に提出することが可能で、受理されると戸籍には離婚した旨が書き込まれてしまいます。同意をしていないにも関わらず勝手に手続きが行われ、それに対して不服がある場合には裁判で無効にする調停を申し立てる方法のほか、離婚届不受理申出を行うことで差し止めることができます。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
離婚届不受理申出制度
民法764条と739条では、夫婦が合意して行う協議離婚は離婚届の提出によって成立するものとされています。しかし、離婚届を受け付けている役所の窓口では本当に適切な協議が行われたのか、本人同士の合意があったのかなどを特に調査することも無く、書類の書式に問題が無ければ受理されてしまうため、どちらか一方が勝手に提出してしまうことも可能になっているのが実態です。
受理されると戸籍には夫婦が離婚した旨が記述された段階で効力を発揮し婚姻関係は無きものとなり、遺産相続や財産分与、子供が居る場合には親権などの面でも大きな影響を与えます。合意なく離婚届の提出をされた場合には裁判所に無効にする調停を申し立てる方法もありますが、それでは膨大な時間と費用がかかってしまいます。
そこで手続きの簡素化だけではなく、合意が無いままで一方的に離婚を突き付けられた側を救済するなどの目的から、離婚届不受理申出制度が設けられました。役所に離婚届不受理申出が受理されると離婚届は不受理となり、戸籍に記された離婚の旨を示す記載も削除されます。離婚届不受理申出は一度受理されると申出人が取り下げる手続きをしない限り無期限に有効となっており、その間は勝手に離婚届が提出されることがあっても不受理となります。
この期間には双方で話し合いをして関係を修復するケースがあるほか、合意まで話を進めて協議離婚を成立させるなどの時間に充てられます。ここで協議離婚をすることを双方合意の上で決めた場合には、離婚届不受理申出を取り下げてから離婚届を提出するという流れになります。
知らないうちに離婚届提出された場合どうなる?
離婚届の提出には夫婦双方の合意が必要であることから、本人が自署で署名しなければならない欄に無断での署名や、勝手に書類を役所に提出することがあれば違法行為となります。その一方で、たとえ勝手に役所への離婚届の提出が行われたとしても放置しておけば離婚が成立してしまいます。そこで不服があるなら家庭裁判所に協議離婚無効確認の申し立てを行って離婚届を無効にすることが可能です。
簡易的、かつ効果的な方法が離婚届不受理申出制度です。離婚届の提出時に署名を勝手に書くことや合意なしに手続きをするなどして、裁判を提起した結果、有罪判決となった場合は、検察官から離婚届を受理した市町村役場に通達があり、戸籍に記述された離婚した旨を削除するように市町村長に求めることや、自らの職権で法務局の許可を得てから訂正することも可能です。
また、これらの有罪に該当する可能性のある犯罪としては、以下のものがあります。離婚届けを提出する際に相手の署名や捺印を勝手に行った場合には偽造をしたとみなされ、有印私文書偽造罪に問われ、3ヶ月以上5年以下の懲役が科せられることがあり、勝手に作られた離婚届を提出した場合には偽造有印私文書行使罪に問われ、こちらも3ヶ月以上5年以下の懲役が科せられることがあります。
昨今では戸籍などの書類は電子化されて保存されているケースが増えており、偽装された離婚届を提出することで電磁的公正証書原本不実記載罪に問われ、5年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられることがあり、勝手に離婚届を提出する行為は安易に行わないのが賢明です。
離婚届不受理申出書提出の手続き
申請書類は、最寄りの市町村役場で配布されているものや、窓口で職員に問い合わせることで手渡してもらえます。また、市町村役場の公式ホームページでファイルが提供されている場合にはダウンロードし、それをプリントアウトして使用することも可能です。
書類の書式やデザインは自治体によって若干異なることもありますが、概ね内容は同様です。申出人と配偶者の氏名、生年月日、現住所、本籍のほか、申出人の自署による署名と捺印、連絡先などを記載する欄があります。
離婚届不受理申出の書類の提出は申出人が住んでいる最寄りの市町村役場の窓口が最も手続きがしやすい場所ですが、遠方などの理由から移動するのが困難な場合、いずれの役所に提出しても構いません。市町村役場によって担当部署が異なることがありますが、戸籍課や住民課で受け付けているはずです。離婚届不受理申出を提出する場合には本人確認書類の提示が必要になるので、運転免許証やマイナンバーカードなどを忘れずに持参しましょう。
もしも記載に不備があった場合には連絡が来て書類を修正、または再提出を求められる場合があります。原則として平日に行われることから土日祝を挟んだ場合には翌営業日の対応になります。手続きをスムーズに進めたい場合は、平日の午前中に提出を済ませて、万が一修正や再提出が必要になっても早期に対応できるようにしておくのがおすすめです。
離婚届不受理の申し出は相手に分かってしまう?
配偶者との関係から、離婚届不受理申出を提出したことを知られたくないというケースも少なくありません。しかし、離婚届不受理申出を提出しただけなら特に役所から通知や問い合わせが行くこともないため、その時点では相手に一切知られることは無いので安心です。
その一方で相手に確実に知られてしまう事象が、離婚届を提出された時です。相手が役所の窓口に離婚届を提出した場合、不受理申出が出されているため受理できない旨を伝えられて不受理となり、この瞬間に相手は全容を知ることとなります。
相手が離婚をしたいと強く考えていた場合には、離婚届不受理申出がされていたことに抗議をしてくる可能性があります。しかし、離婚は夫婦双方が協議をした上で合意するか、裁判を提起して裁判所の判断を元にして成立するものであり、その段階に至る前にどちらかが一方的に手続きを行えるものではありません。
離婚に同意できずに離婚届不受理申出をするのは法で認められた正当な権利であるのと同時に、離婚届不受理申出は相手の同意を得なくても提出できるルールとなっています。また、いずれは離婚を考えている場合でも早計な判断をせず、じっくりと考え交渉をする目的で離婚届不受理申出を提出したという事例もあります。これにより相手が勝手に離婚届を提出するのを抑止して、有利に交渉を進めるという方法もありました。
まずは離婚届不受理申出を提出して一旦立ち止まって冷静に考え、それでも自分自身で結論が出ない場合には、その間に弁護士などの専門家に相談するのもひとつの方法です。
まとめ
離婚届不受理申出は相手が勝手に離婚届を提出しても不受理にできる制度で、裁判や調停など煩雑な手続きを行わずとも、即座に一方的な離婚の成立を抑止できます。財産や親権などの問題だけではなく、冷却期間を置いて冷静に考える時間を得る方法としても利用されることがあります。
法で定められた正当な権利であるのに加えて、書類を1枚提出するだけの比較的簡単な手続きで済むことから、相手が勝手に離婚しようとしている際には検討しておきましょう。