離婚時に親権者になるには?決め方と手続きについて
「親権」とは、子どもの監護・養育を行い、財産管理および法的行為の代理人となる権利です。離婚の成立には親権者の決定が不可欠であり、離婚後に決めることはできません。話し合いで決まらなければ家庭裁判所の立ち会いのもと、調停・訴訟へと発展します。
これ以上は夫婦生活を続けることはできないけれど、子どもとは離れたくないという方は決して少なくありません。離婚の話自体はスムーズに決まっていたのに、子どもの親権はどちらが持つのかという点で争いが生まれて一気に泥沼化するというケースも非常に多いです。ここでは離婚後に親権者になるための手続きや知識など親権に関する基本、また親権の停止や喪失・放棄といった項目についても見ていきます。
[ご注意]
記事は、公開日(2022年11月9日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士に最新の法令等について確認することをおすすめします。
親権とは?
親権とは、未成年者である子どもの監護および養育、そして財産の管理や法的行為を代理人として実行する権利・義務のことを指します。民法によってそれぞれの権利や義務が定義づけられており、親権者は子どもの代理人として権利と責務を請け負う形です。
包括的な財産を管理する財産管理権が、民法第5条によって定められています。子どもの法律行為に対して、同意する権利も同様に含む形式です。身分法に基づいて行われる身分行為も本人に代わって実行し、同意する権利が第737・775および787と804条に明記されています。これを身上監護権と呼び、財産管理権と同様に親権者が持つ権利です。
親が子どもの居住地を指定する権利、すなわち居所指定権は第821条によって保証されています。他にも本人が職業を営むにあたり、親がその職に就業することを許可する権利も有しています。加えて親権者には、お子さんに対して親がしつけを行う懲戒権もある点は覚えておきましょう。
いずれも親が有する権利ですが、一方で社会的に未熟である子どもを保護して、なおかつ精神的・肉体的な成長を促す義務も生じます。こういった権利・義務は、通常であれば父母が共に有します。しかし父母が離婚する場合は、夫婦が共同するという形で親権を行使するのはできません。
そのため離婚するにあたって、父母のどちらかに親権を行使するための親権者を定める必要があるという訳です。民法第819条にその記載があり協議で決める場合は同条1項、裁判上の離婚の場合は2項に基づき決定することとなります。
「親権」についてはこちらの記事もご覧ください。
親権者になるためには
親権者になる上で夫婦間での話し合いで済む場合は、特に条件はありません。父もしくは母が引き取ると宣言して、両者が納得していれば完了します。しかし親権者をどちらにするかが話し合いでは決定できない場合は、原則的には調停で決めてそれでも定まらない場合は裁判によって決定させるという流れです。調停および裁判で、親権者を決める場合には判断される基準がいくつか存在します。
基準の1つに、これまでの監護実績が挙げられます。これまで子どもの監護を主体として行っていた側が、そのまま継続して監護を担っていくべきと判断されることが多いです。特に夫婦が既に別居しているケースでは、現在子どもを預かって監護を行っている側が有利になります。
離婚後の監護体制に関しても、大きな考慮の要素・基準となります。もし離婚後に親権者になったとして、今後の生活において適切な監護の体制が整えられているのであれば調停委員会にアピールすべきです。なお幼少期であれば、子どもと過ごせる時間が多いほうが有利になる傾向にあります。仕事場の調整や保育所、家族の協力を得つつ、お子さんとの時間をしっかりと取れる面をアピールすると良いでしょう。
親権者となる者は、心身が健康であることも条件として数えられます。健康状態を損なっていては、子どもの監護を問題なく行えるかどうかが疑問視されるからです。さらには子どもの学費・生活費など、十分な経済状況を有していることも条件として見られます。収入が少ないケースでも養育費でカバーできる点もあるため、親権を諦めずに戦っていくことをおすすめします。
親権者を決める手続き
協議離婚を行う場合、話し合って夫婦のどちらかを親権者と決める必要があります。特に子どもが未成年であれば、決めるまでは離婚が成立しません。この理由は離婚届にあり、書類内に親権者を記載する欄があるからです。親権者が決まっていない状態、すなわち離婚届の項目が満たされていないまま提出しても役所では受け付けないことになっています。
ちなみに離婚の際に取り決める条項はいくつかありますが、財産分与や慰謝料といった項目は離婚後に条件を決定することもできます。しかし親権者の決定は、離婚の際に絶対に取り決めなければならないという点を覚えておきましょう。
話し合いで親権者が決められない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。裁判所においての調停の話し合いを通して、親権者を決めるという流れです。なお先述のとおり、離婚と同時に親権者を決めておかなければならないため話し合いが決裂したということは、離婚するかどうかも宙に浮いてしまいます。そのため親権が決められない場合は、離婚と親権者の調停の両方の申し立てを行って決めていくのが一般的です。
調停でも折り合いがつかないケースに関しては、裁判所に委ねることとなります。これを親権者指定の審判手続と呼び、裁判所が判断します。先程の離婚調停の中で親権者の折り合いが付かない場合、離婚訴訟の提起へと事態は発展すると覚えておきましょう。ここで離婚の成否、その条件について争うことになります。そして訴訟内で離婚条件の1つに、親権者をどちらにするかを裁判所に判断してもらうことも一緒に申し立てます。
親権の停止・喪失・放棄
無事に親権者が決まった後でも、状況が変化することがあります。
それが親権の一時停止や喪失、放棄といったものでありいずれも民法に定められている条項です。
親権の停止
親権の停止は第834条の2に記載されており、一定期間にわたって親権が行使できなくなります。平成23年度の法改正によって停止期間が決まっており、一番長くて2年です。
親権の行使が困難もしくは不適当であり子どもに不利益をおよぼす際において子や親族、家庭裁判所や検察官などの請求により停止の審判が下されます。ネグレクトなどによって、親権の行使が危ぶまれている場合は申し立てることが可能です。
親権の喪失
続いて親権の喪失とは、文字どおり親権保持者からその権利を法的に喪失させることです。第834条によって、親権者が虐待や育児放棄を行っている場合において発動します。ただし「著しく」と条項に記されているため、親権の停止よりも成立する条件は厳しいです。
親権の放棄
基本的に親権の放棄は認められていませんが、親権者が重い病気に罹患した場合や刑務所に服役することになるなどやむを得ない状況は別です。民法第837条に親権の辞任として明記されており、放棄が認められる可能性があります。
他の停止・喪失と同様に、子どもが不利益を被る状況と判断された場合に家庭裁判所で手続きが可能となります。また親権の回復も同じ条項内に定められており、やむを得ない事由が解消・消滅した際には親権を取り戻すことも可能です。放棄と同様に、家庭裁判所に申し立ててその事態が消滅したことが証明できれば親権が回復します。
まとめ
親権者の決定なくしては離婚が成立せず、そこが争点となって調停・訴訟へと発展することも少なくないです。裁判所が介した場では親権者がどちらになれば、子どものためになるのかという点が重視されます。自身が親権者としてふさわしいと自認するのであれば、十二分に主張すべきです。
一方で相手の配偶者の方が望ましいと考えるのであれば、面接交流などを条件に盛り込んで早期解決に導くことも、子に対して良い対応となる場合もあります。親権者がどちらであれば子が幸せであるのかを念頭に置きながら、判断していくことが大切です。